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 2011年5月から約4年間にわたり、「月刊少年マガジン」(講談社刊)にて連載された“泣ける青春ラブストーリー”「四月は君の嘘」。
 『暗殺教室』『土竜の唄 潜入捜査官REIJI』など、大ヒット映画を多数手掛けてきた上原寿一プロデューサー(以降上原P)が、この人気マンガを映画化したいと考えたのは、単行本の第2巻が発売された12年頃。「四月は君の嘘」は、マンガ原作のラブストーリーとしては珍しく、女の子にひっぱられて男の子が成長していく物語であり、そのことが、いつか青春ラブストーリーを作りたいと思っていた上原Pを特に惹きつけたという。
 14年10月、アニメ版が放送開始。ちょうどその頃、満を持して実写化の企画がようやく動き出した。最初に取り掛かったのは、宮園かをりと有馬公生のキャスティングである。かをり役は、当時『海街diary』の撮影中でもあった広瀬すず。「オーラのある人が出てきたなと。原作に出会ってから2年間ずっとかをりのイメージに合う女優さんが見つからなかったのですが彼女ならかをりを演じられると思いました」と上原Pは言う。一方、公生役には、当時「水球ヤンキース」などで光る演技を見せていた山﨑賢人。
「彼はクールな役を演じることが多いですが、本人はイノセントで、母性本能をくすぐるタイプ。まさにピッタリでした」。15年に大ブレイクを果たすことになる二人が『四月は君の嘘』で初共演することは、この時点で決まっていたのである。
 その後、『潔く柔く』『あやしい彼女』「重版出来!」などの八尾香澄プロデューサー(以下八尾P)も本作に参加することに。監督は、『僕の初恋をキミに捧ぐ』『潔く柔く』など、繊細な青春ラブストーリーを描くことに定評がある新城毅彦監督、脚本は『ストロベリーナイト』の龍居由佳里にそれぞれ決定する。

 広瀬すずと山﨑賢人が楽器のレッスンを始めたのは、クランクインを約半年後に控えた15年4月のことだった。当時、広瀬は初主演映画となる『ちはやふる』の撮影前、山﨑はNHK連続テレビ小説「まれ」の撮影中。本作はというと、まだ脚本はできておらず使用する楽曲も決まっていない段階だった。
 二人が楽器練習を開始した後、脚本打ち合わせと並行して、いよいよ劇中の楽曲制作がスタート。長いクラシックの楽曲の劇中使用箇所を、2時間しかない映画の脚本に収まるように絞り込む作業を経て、プロのミュージシャンによるレコーディングが行われ、その音に合わせて二人の練習は更に本格化していった。一方、監督は二人の練習の為にクランクインの3か月も前から演奏シーンのカット割りについて考えなければならず、二人が撮影に必要な部分だけを効率よく練習できるように考慮していたという。

 音楽に苦手意識があったという広瀬は、自他共に認める負けず嫌い。かをり役に近づくため、納得がいくまで何度も何度も反復練習を続けた。広瀬に負担がかかりすぎることを心配したスタッフが、楽曲の練習範囲を最小限に絞ろうとするも、それがまた広瀬の“完璧主義者”魂に火を付け、さらなる猛特訓を呼ぶ。元々運動神経が良かった広瀬だが、実は優れた音感の持ち主でもあり指導者を驚かせた。結果、広瀬の努力が実を結び、当初予定していなかった部分まで習得するぐらいの上達ぶりを見せた。
 一方、元々音楽が好きだったという山﨑は、ピアノ練習が始まった当初から、楽しんで曲を弾いていた。多忙にもかかわらずスケジュールの空きがあれば、もっとレッスンを組んでほしいとリクエストするほど。難しい指使いに苦戦しながらも「何とかなる!」と考える楽観主義者で、褒められると伸びるタイプ。メロディが捉えづらい難曲も、いつしか口ずさめるほどになり、周囲からの「あともう少し!頑張って!」という励ましに応える形で練習を重ね、ぐんぐん上手くなっていった。  音楽へのアプローチはある種真逆だった二人。だが、熱心に取り組み、弾くための動きを自分のものにしていったという意味では同じ。移動車の中でも劇中で演奏する楽曲を聴き続け、現場での空き時間や1日の撮影が終わった後など、撮影中も時間があればとにかく楽器を練習していた。

 本作のクランクインは15年10月7日。青春を感じるシーンからスタートしたいという製作陣の意向もあり、横浜の清水ヶ丘公園にて、かをり、公生、澤部椿、渡亮太の4人が出会うシーンから撮影が始まった。椿役と渡役を演じるのは、高校生をリアルに体現できるフレッシュな役者として選ばれた石井杏奈と中川大志。4人は初日から和気あいあいとした雰囲気で、「その空気感が完成した映像にも映っていると思います」と上原Pは語る。 かをりのスカートが風になびくカットがリアルに撮れるほどの強風が吹く中、この場面にふさわしい、雲ひとつない青空に恵まれて撮影が進んで行った。
 かをりと公生が橋から川に飛び込むシーンは10月13日に岐阜県の郡上八幡にて撮影された。このロケ地は監督が自ら見つけ、撮影を熱望した場所。タイトなスケジュールの中で、効果的に撮るため、製作陣は前もって何度も現場に通い、ロケ場所を検証し撮影の日を迎えた。広瀬と山﨑は、10月の冷たい川の水にもめげず、さわやかな演技を見せる。が、川から上がってきた公生のポケットから出てきたのは、山﨑の私物の携帯…!?このシーンの、「忘れられるはずない」という公生のナレーション通り、山﨑にとっても、忘れられない撮影となった。

 長かった髪を椿らしくカットして、本作に臨んだ石井杏奈は、台本に「楽しそうにお喋りをする」とだけあった、公生と並木道を歩くシーンの会話の内容を自ら考えるなど、椿役にのめり込んだ様子(ちなみに、「公生は写真撮る時ピースが下手くそ(笑)」という会話が展開されている)。また、4人の中で唯一全員と共演経験があったのが、中川大志。特に「水球ヤンキース」で共演した山﨑とは普段から仲が良く、中川の山﨑に対する思いと、渡の公生に対する思いがリンクし、自然に友情を表現することができたという。それぞれの役柄に一生懸命、真摯に取り組んだキャスト陣の演技が、本作の青春ドラマをよりリアルで見ごたえのあるものにしている。
 さらに公生の亡き母、有馬早希役は檀れい。そして現在の公生を支える早希の親友・瀬戸紘子役には板谷由夏がキャスティングされ、作品に深味をもたらしている。

 新城監督の作品と言えば、丁寧なカット割りと、映像美も印象的。太陽の位置までも計算しながら、ロケ地や撮影の時間帯を決めていく。『潔く柔く』でも新城監督とタッグを組んだ八尾Pは言う。「監督は、画の美しさにすごくこだわる方。今回は、逆光の美しさを狙いたいとずっとおっしゃっていました」。原作者・新川直司からの「キラキラ感にこだわって欲しい」というリクエストもあり、今回は海が近い鎌倉で多くのシーンをロケ撮影している。
 4人が通う高校の屋上のシーンを撮ったのは、撮影に貸し出すのは本作が初めてだったという鎌倉高校。遠くに江の島が見える絶好のロケーションで撮影することができた。かをりが公生を伴奏者に任命するシーンは稲村ヶ崎でロケ撮影。ちなみにこの日は、曇りの予報だったが、超がつく晴れ女・広瀬すずのパワーもあり(!?)、晴れて美しい夕日も撮ることができた。その他、椿が公生に告白するシーンは理想的な曇天模様になるなど、天気も味方につけた撮影となった。

 本作では4度のコンサートシーンが描かれる。関東近郊の4ヶ所のホール(川口総合文化センター、和光市民文化センター、立川市市民会館、国立音楽大学)で、それぞれ数日かけて撮影を行った。
 本作の撮影の最初のコンサートシーン撮影となったのは、劇中でも最初のコンサートシーンでかをりが演奏する、パガニーニの「24のカプリース第24番」。今回、コンサートシーンで使われた4曲のうちこれだけが原作から変更したもの。かをりの初演奏シーンに、よりインパクトを持たせるために選ばれた激しく、情熱的な曲で、赤いドレスも曲に合わせたチョイスである。プロの演奏家にとっても難しいといわれるほどの楽曲だが、かをりはこのシーンで公生に音楽と向き合うきっかけを与える強烈な演奏をみせなければならない。プレッシャーの中、一人きりでステージに立った広瀬は堂々たる演技を披露。このシーンの撮影が終了すると、飛び上がって喜んでいた。
 一方、公生演じる山﨑の最初のコンサートシーンは亡き母との思い出の曲であった「愛の悲しみ」を演奏するシーン。山﨑は、ピアノを弾きながらモノローグに合わせた芝居もしなければならないが、思いきりよく、両手はもちろん、足のペダルも見事な動きで操りながら演じていった。ショパンの「バラード第1番」は、監督が気に入っていた国立音楽大学のホールが急遽使えることになり、当初のスケジュールを変更し、前倒しで撮影することになったシーン。映画のラストに相応しい素晴らしいロケーションでの撮影となった。
 コンサートシーンの撮影の最後を飾ったのが、サン=サーンスの「序奏とロンド・カプリチオーソ」をかをりと公生が演奏するシーン。「かをりと公生が共に弾くことを楽しみながらエネルギッシュな演奏を見せる後半部分では、広瀬さんも山﨑くんも気持ち良さそうに、驚くほど上手に弾いていて感動しました」と八尾Pがコメントするように、生き生きと素晴らしい演奏を見せる二人。その姿に、指導した先生も思わず涙するほど。そしてまずは広瀬がすべての演奏シーンの撮影を終え、とびきりの笑顔を見せた。本来ならここで広瀬はクランクアップするはずだったが、急患の為中止になった手術室のシーンを後日撮影し、全シーン終了となった。

 山﨑のクランクアップは、広瀬が演奏シーンを撮り終えた翌日のことだった。「序奏とロンド・カプリチオーソ」を弾く公生のカットを次々と撮影。先に客席のシーンを撮り終え、クランクアップした石井、中川、板谷はそのままホールに残り、山﨑のラストカットを見守る。さらに、この日撮影がなかった広瀬も、現場に駆け付けた。そして撮影に参加してくれた多くのエキストラさんと共に、ついに迎える感動の大団円!振り返れば、朝から晩までぶっ続けで演奏シーンを撮る日もあった広瀬と山﨑だが、ハードなスケジュールの中、全力で取り組んできた。高い集中力で本番に挑み、自分の演奏に納得がいかないと、「もう一度やらせてください」と直訴することも。  こうして本番では練習以上に完成度の高い演奏を何度も披露し、更には練習時は成功しなかった難所まで見事に演奏して見せるという奇跡が何回も起きた。そんな二人の頑張りが本作の演奏シーンに確かな説得力をもたらしている。  作品を締めくくる主題歌「ラストシーン」を書き下ろしたのは、いきものがかり。切なく温かなミディアムバラードは、「まさにこういう曲がほしかった」(上原P)と絶賛するほど本作にぴったり。愛と希望にあふれる映画を優しくカラフルに彩っている。

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